プロポーズ大作戦!!
事の発端は金曜日の一本の電話だった。
その電話は土曜日のディナーのご予約だった。
声の主は20代くらいの若い男性。
わたしが予約の内容を尋ねると、どうやらサプライズディナーらしい。
ホールケーキを聞かれたので、さすがにご予約の前日に作るのは週末ということもあるし、困難だとお伝えし、皿文字を代案してみた。
わたしはてっきりお誕生日だと思ってお話をすすめていると、どうやら違うらしい。
男性は私にこう言った
「結婚をもうしこみたいんです」と。
男性の声は受話器越しにでもわかるくらい動揺していた。
わたしはお客様の力になりたいと強く思った。
そして、こう言った
「イタリア語で結婚しよう!と皿文字に書くのはいかがですか?きっとイタリア語で彼女さんは何のことかわからないでしょうから、さりげなくて素敵だと思います。」と。
男性はわたしにお願いします。と言い、わたしもお任せ下さいと伝えその場は終わった。。。
土曜日。
時刻は夕刻。
うっすら明るい空が月の丘の森を包んでいる。
テーブルセッティングはぬかりない。
プレゼントの花束もご用意した。
値段を書かない手書きのメニューも用意し、
皿文字も美しく完成した。
準備は整った頃、辺りはすっかり暗くなっていた。
チリンチリン~とドアの開く音が店内を木霊した。
男性は日焼けした浅黒い肌に白い歯が印象的で、女性は屈託のない笑顔がまぶしい印象だった。
そっと男性はわたしにアイコンタクトをしてきた。
わかってますとも!!精一杯務めさせていただきます!成功させましょ!と心の中で呟いた。
お食事はアニバーサリーディナーコース
美味しいお料理を舌包みし、若い二人はとても楽しそうにお食事をしていた。
メインの皿をさげ暫くすると、男性は席を立った。
車に戻り、指輪をとりに行ったのである。
帰ってくる男性を待ち伏せし、軽く打ち合わせをしようと声をかけたところ、
男性はがっちがちに緊張している様子で、どうしたらいいのか?と困惑の眼差しでわたしを見つめた。
わたしは、軽く深呼吸し、わたしの演出をお伝えした。
男性はそれでお願いしますと言い、彼女のもとに行った。
ドルチェの皿を持ち、彼女に見えるように置き、わたしは彼女に言った。
このドルチェミストは○○様からの特別オーダーによりおつくりさせていただきました。
このメッセージには意味がございます。
○○様の深い想いがこのメッセージにこめられております。
では、○○様より、この意味をお聞き下さいませ。
それでは、ごゆっくりどうぞ。
ガラス越しに見える二人のシルエット。
固唾を飲んで見守った。
さっきまで満面の笑みだった彼女の肩が小刻みに震えているのが見えた。
そのあとは二人っきりの時間を。
お帰りの際にマネージャーから花束をプレゼントした。
男性は来た時とまるで違う柔らかで晴れやかなお顔で私たちにこう言った。
「プロポース!成功しました!」
と。
彼女は目を赤くしながら彼を見つめ、やっぱり最後まで素敵な笑顔だった。
お客様。
とっても大切なな時間を私たちにお任せ下さいまして、またお手伝いさせていただきまして、ありがとうございました。